骨髄異形成症候群(MDS)

 骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成の骨髄,および急性骨髄性白血病(AML)への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出血の増加(血小板減少症に起因)などみられる。診断は血算,末梢血塗抹検査,および骨髄穿刺による。アザシチジンによる治療が有用な場合がある;AMLを併発した場合は,通常のプロトコルに従って治療を行う。

病態生理

 MDSはクローン性の造血幹細胞疾患の総称であり,いずれの疾患も造血幹細胞の様々な遺伝子変異(RNAのスプライシングに関与する遺伝子の変異が最も多い)をもつことを共通とする。骨髄異形成症候群は,無効造血および異形成を伴う造血を特徴とし,以下が含まれる:

  • 不応性貧血
  • 鉄芽球性貧血
  • フィラデルフィア染色体陰性慢性骨髄性白血病
  • 慢性骨髄単球性白血病
  • 慢性好中球性白血病

● 病因は不明であることが多い。特定の造血幹細胞のクローン性増殖および優位性を促進
 する体細胞変異の獲得,ならびにおそらくベンゼンなどの環境有害物質,放射線,およ
 び化学療法薬(特に長期または強力なレジメンに加え,アルキル化薬および/またはエピ
 ポドフィロトキシン系薬剤を含むレジメン)への曝露が原因で,加齢に伴いリスクが高
 まる。
 染色体異常(例,欠失,重複,構造異常)がしばしば存在する。

● 骨髄は低形成の場合も過形成の場合もある。無効造血により,貧血(最も多い),好中
 球減少症,血小板減少症,またはこれらの組合せが生じ,骨髄形成不全に至ることさえ
 ある。著明な貧血がある患者は,輸血および/または消化管からの鉄の吸収亢進によって
 鉄過剰になることがある。

● 造血障害は,骨髄中および血液中における血球の形態学的異常にも関係している。髄外
 造血が生じることがあり,肝腫大および脾腫を来す。骨髄線維症がMDSの進行過程で
 発生することがある。分類は血液および骨髄所見( 骨髄異形成症候群の骨髄所見および
 生存期間)と核型および遺伝子変異による。MDSクローンは不安定であり,急性骨髄性
 白血病へ進行する傾向がある。

症状と徴候

 症状は最も強く障害された細胞系列を反映する傾向を示し,具体的には蒼白,筋力低下,および易疲労感(貧血による);発熱および感染(好中球減少症);ならびに皮下出血,点状出血,鼻出血,および粘膜出血の増加(血小板減少症)などがみられる。脾腫および肝腫大がよくみられる。

● 症状が他の基礎疾患に起因していることもある。
 例えば,以前から
 心血管疾患を有していた高齢患者では,MDSによる貧血のために狭心痛または心不全が
 増悪することがある。

診断

  • 血算
  • 末梢血塗抹検査
  • 骨髄検査

 不応性貧血,白血球減少症,または血小板減少症の患者(特に高齢者)では,MDSが疑われる。自己免疫疾患,ビタミン欠乏症,特発性再生不良性貧血発作性夜間血色素尿症,または薬剤の作用に起因する血球減少症を除外する必要がある。診断は,末梢血および骨髄検体において特定の系統の血球の10~20%に形態学的異常を認めることにより示唆されるが,確定診断は特異的な細胞遺伝学的異常と体細胞変異を証明することによる。

● 貧血が最も一般的な特徴であり,通常は大赤血球症および赤血球大小不同を伴う。この
 ような変化は,自動血球計算機を用いると,MCVおよび赤血球分布幅の増加により示さ
 れる。

● 通常はある程度の血小板減少がみられ,末梢血塗抹標本では,血小板の大きさが不同
 で,低顆粒と判定されることもある。

● 白血球数は,正常,増加,または減少のいずれの可能性もある。好中球の細胞質顆粒は
 異常であり,大小不同および顆粒数のばらつきを伴う。好酸球に異常顆粒がみられるこ
 ともある。pseudo Pelger-Huët核異常(低分葉核好中球)がみられることがある。

● 単球増多症は,慢性骨髄単球性白血病亜型の特徴であり,より未分化な亜型で未熟骨髄
 細胞がみられることがある。細胞遺伝学的所見は,通常異常であり,5番または7番染色
 体に1つまたは複数のクローン性細胞遺伝学的異常がみられることが多い。5q欠失症候
 群はMDSの特殊な病型であり,主に女性に生じ,典型的には大球性貧血と血小板増多が
 認められる。
 この病型はレナリドミドに非常によく反応する。

予後

 予後は分類と併存疾患に大きく依存する。5q欠失症候群,不応性貧血,または環状鉄芽球を伴う不応性貧血の患者では,より悪性の病型へ進行する可能性が低く,本疾患とは無関係な原因で死亡することもある。

治療

  • 症状改善
  • 支持療法
  • 場合により造血幹細胞移植

アザシチジンの投与により,症状が軽減し,白血病への移行率および輸血の必要性が低下し,生存期間が改善する。その他の治療は支持療法であり,適応となる場合の赤血球輸血,出血に対する血小板輸血,および細菌感染症に対する抗菌薬療法などがある。メチル化阻害薬であるデオキシアザシチジンは,アザシチジンに反応しない患者でも,ときに効果的である。

● 一部の患者では造血を補助する薬剤で血球減少を改善できるが,生存期間の延長はみら
 れていない。

  • 貧血:エリスロポエチン,単独または顆粒球コロニー刺激因子との併用(血清エリスロポエチン濃度が5mU/mL未満の場合のみ効果的)
  • 顆粒球減少症(重度,症状を伴う):顆粒球コロニー刺激因子
  • 血小板減少症(重度):トロンボポエチンミメティクス

● トロンボポエチンにより骨髄機能も全体的に改善することがある。

● アザシチジンまたはデシタビンとレナリドミドなどの免疫調節薬の併用療法が現在研究
 段階にある。レナリドミドの単剤療法は5q欠失症候群患者で特に有用であり,さらに貧
 血性のMDSで5q欠失症候群がない患者の25%で効果を示すと考えられる。低形成性の
 MDS患者では,シクロスポリンの単剤療法またはATGとの併用療法が成功を収めてい
 る。

● 同種造血幹細胞移植は若年患者に対する治療選択肢であり,骨髄非破壊的同種骨髄移植
 が50歳以上の患者を対象に現在検討されている。化学療法(典型的にはAMLに使用され
 るものと同様のレジメンを用いる)に対するMDSの反応は,患者の年齢および核型を考
 慮に入れた場合のAMLの反応と同様である。

要点

● 骨髄異形成症候群は,異常な造血幹細胞のクローン性増殖を伴う造血細胞産生障害で
 ある。
● 通常は,赤血球(最も多い),白血球,および/または血小板の欠乏を呈する。
● 急性骨髄性白血病への移行がよくみられる。
● アザシチジンの投与により,症状が軽減し,急性白血病への移行率が低下する。
● 造血幹細胞移植は若年患者における治療選択肢である。

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