輸血後GVHD

  (PT-GVHD)

【原因】

 輸血後GVHDは、輸血用血液中に含まれる供血者のリンパ球が排除されず、むしろ患者のHLA抗原を認識し、急速に増殖して、患者の体組織を攻撃、傷害することによって起きる病態である。
以前は、免疫不全の患者にのみ発症すると考えられていたが、原病に免疫不全のない患者でも、HLAの一方向適合(HLA one way match)

◆HLAの一方向適合
 HLAホモ接合体(a/a)の供血者血液がHLAヘテロ接合体(a/b)の患者に輸血される場合、供血者リンパ球は患者の抗原成分のみで構成されているので、患者リンパ球は供血者リンパ球を他人と認識できない。逆に供血者リンパ球は患者HLA抗原を他人と認識する。この結果、供血者リンパ球は患者体内から排除されず、供血者リンパ球が一方的に患者体組織を攻撃する。

【病態】

 輸血後1~2週間後に発熱・紅斑が出現し、肝障害・下痢・下血等の消化器症状が続きその後骨髄無形成、汎血球減少症となり、最終的には多臓器不全となり、ほとんどの症例が輸血後1ヶ月以内に致死的な経過をたどる。

【輸血後GVHDの危険因子】

●輸血用血液側の因子
 分裂増殖能のあるリンパ球を含む血液製剤

 ①新鮮な血液の使用
  ・採血後3日以内の血液がより危険である。
  ・採血後2週間以内のリンパ球には免疫応答と分裂増殖能力(活性)が残されている
   可能性があると考えるべきである。
  ・新鮮凍結血漿を除く全ての輸血用血液には活性のあるリンパ球が含まれる可能性が
   ある。
●対象患者側の因子
 輸血された供血者リンパ球を患者体内から排除できない場合
 ①免疫不全状態にある患者
  ・先天性免疫不全症
  ・造血幹細胞移植、臓器移植
  ・胎児、未熟児、新生児
  ・白血病、悪性リンパ腫
  ・強力な抗癌剤投与・放射線照射・免疫抑制療法を受けている患者
 ②免疫不全のない患者で供血者のHLAとの一方向適合
  ・血縁者間の輸血
  ・外科手術
  ・高齢者
  ・初回輸血

【診断方法】

 患者のリンパ球が供血者のリンパ球に置き換わってキメリズムが成立していることを証明すればよい。
方法はリンパ球のHLA型の変化を調べるほかに、染色体にあるヌクレオチドの繰り返し配列の多形成を指標としたマイクロサテライト法などがある。

【治療】

 発症が確定した場合には骨髄抑制および多臓器不全による症状に対して無菌操作、感染症に対する治療などの強力な支持療法が必要になる。これと平行して、供血者リンパ球排除の治療も行う。

【予防法】

 PT‐GVHDは発症すると治癒させることは極めて困難であるために予防が主に行われる。血液製剤に15~50Gyの放射線照射を行い製剤内に含まれる免疫担当細胞の分裂能を失活させてしまう。リンパ球混合培養試験でみたリンパ球活性は5Gyの放射線照射でほぼ完全に消失し,50Gyの照射でリンパ球のマイトジェンに対する反応性は96~99%が失活する。他の方法として白血球除去フイルターの使用があるが,この有効性に関しては結論が出ていない。当院では血液製剤に20Gy照射を行いPT-GVHDの防止を行っている。
 【輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅤ 】 

造血細胞移植ガイドライン GVHD



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