補体

 Bordet (1895年)は、溶菌現象には抗体以外の易熱性の因子が必要と報告した。Ehrlichはこの因子を補体(complement)と命名した。補体は、血液中に存在する約20種の易熱性のタンパク質からなる複雑な反応系で、溶菌作用、オプソニン作用、貪食細胞の感染部位への集合を促進するなどの機能をもつ。
補体系のタンパク質は非動化の条件(56℃,30分)で完全に失活する。
補体は血液中では不活性な酵素として存在し、補体が活性化されると次々と他の補体を活性化する連鎖反応がおこり、その結果、最終的に細菌や細胞に穴をあける。
この一連の反応系を補体活性化経路と呼び、この反応系には最初のトリガーとなる補体の活性化により以下に示す3種類の活性化の経路が存在する。

①古典経路
②別経路
③レクチン経路 

① 古典経路は体内に侵入してきた細菌や細胞の膜抗原に抗体(IgGやIgM)が結合して免疫複合体を形成すると、補体第1成分(C1)がこの抗体と結合して、C1が活性化されます。活性化したC1は補体C4を活性化し、その後、補体(C2~C8)を次々に活性化します。その結果、最終的に膜上に補体第9成分(C9)の複合体を細胞壁(膜)に埋め込み、細菌や細胞に穴をあけます(図3)。


補体 古典経路の概略

② 別経路は古典経路とは異なり、免疫複合体を必要とせず、補体第3成分(C3)が少しずつ加水分解を受け(C3H2O)、血液中のB因子と結合。B因子と結合したC3H2Oは大量のC3を活性化(C3b)する。このC3bが病原体の細胞壁に結合すると順次補体の活性化が進み、古典経路と同じように最終的にC9の複合体を形成して、細胞壁に穴をあける(図4)。
この反応は古典経路が発見された後に見つかった反応系なので、別経路とか副経路(alternative pathway)と呼ばれているが、進化上では古典経路は脊椎動物から存在するのに対して、別経路は脊椎
動物以前より存在する自然免疫機構であり、古典経路より早い時期から存在していることになる。
酵母の細胞壁多糖類と反応する易熱性の血清タンパク質プロペルジン(B因子)の存在が示され、C1、C4、C2とは無関係に、C3の活性化からはじまる非特異的生体防御系。


補体 別経路の概略
③レクチン経路は3種の補体活性化経路のうち、最も新しく発見された経路でレクチンとは糖鎖に結合活性を示すタンパク質の総称。
レクチン経路は病原体の細胞壁の特徴的な糖鎖構造を認識することに始まる補体活性化経路。
病原体の細胞壁のマンノースを血液中に存在するマンノース結合レクチン(MBL)という物質が認識して結合すると、MBLと結合したMBL結合セリンプロテアーゼ(MASP:MBL associated serine protease)MASP-1と-2が結合してC1様の複合体を形成し,これがC4の分解を引き起こし、補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して、最終的に、他の補体活性化経路と同様にC9の複合体で細胞壁に穴をあける。


補体系の機能と生物活性物質

補体の3つの働き

①細胞溶解:古典的経路が関与。
②免疫細胞の活性化
 Bb:マクロファージを活性化
 C3a, C5a: 好中球の走化(chemotaxis作用,炎症部位へ食細胞を
 呼び寄せる)。肥満細胞を活性化(anaphylatoxin作用)。
③免疫粘着反応とオプソニン効果
 C3b:菌体表面に結合(C3bコーティング)
 →補体の機能として、4点をあげることができる。
  1)膜侵襲複合体による病原体細胞膜の破壊
  2)補体(主としてC3b)受容体(CRと呼ぶ)を介した食細胞による病原体の認識・貪食 
  (病原体が補体や抗体でタグを付けられることをオプソニン化と呼び、オプソニン化され
   た病原体は容易に貪食される)
  3)C3aやC5aを介した白血球の活性化、遊走
  4)マスト細胞の活性化(C3a、C5aにはアナフィラトキシンという別名がある)
 C3b:抗原抗体複合体を赤血球や血小板に付着させる(免疫粘着)。
    オプソニン効果で貪食を助ける。
C3は分子量19万で、2本鎖からなる糖蛋白。補体成分の中では最も高濃度に存在。肝臓、単球、マクロファージで産生。

代表的な補体とその働き


補体成分の種類と諸性質


補体成分C3bによるオプソニン効果


補体系の制御

 補体系は異物細胞のみを破壊し、同種細胞を決して破壊しない→同種補体を制御する制御因子が血漿中や同種細胞膜に存在するため。
①可溶性制御因子
 C1インヒビター(C1INH),I因子,H因子,C4結合蛋白質(C4bBP),
 S protein (Vitronectin)など
②膜補体制御因子
 CR1(補体受容体1/ CD35),DAF(decay accelerating factor/CD55),
 MCP(membrane cofactor protein/CD46),CD59 [GPIアンカー]

補体制御蛋白質


補体の生物活性

補体成分には、様々な細胞上の補体受容体(CR)によって媒介される他の免疫機能がある。

・CR1(CD35)は、食作用を促進して免疫複合体の除去を助ける。
・CR2(CD21)は、B細胞による抗体産生を調節するとともに、エプスタイン-バーウイルス受容体
 でもある。
・CR3(CD11b/CD18)、CR4(CD11c/CD18)、およびC1q受容体は、食作用に関与する。
・C3a、C5a、C4a(弱い)は、アナフィラトキシン活性を有する;肥満細胞の脱顆粒を引き起こ
 して、血管透過性の亢進および平滑筋の収縮をもたらす。
・C3bは、病原性微生物を覆うことによってオプソニンとして働き、それによって食作用を増強する。
・C3dは、B細胞による抗体産生を増強する。
・C5aは好中球遊走因子である;好中球および単球の活性を調節し、細胞接着の増強、脱顆粒および
 顆粒球からの細胞内酵素の放出、毒性酸素代謝物の産生、ならびに他の細胞代謝性事象の開始を
 引き起こすことがある。

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