細菌
微生物検査とは、血液・尿・喀痰・糞便など全身から採取されたあらゆる検体から感染症の原因となる微生物を見つけ出す検査。微生物は、その名の通り「生物」ですから、一部の検査を除いて結果報告までに日数がかかってしまうところが他の検査とは大きく異なる。
血液や尿・便・喀痰などの検体を扱う一般細菌検査、結核菌などの抗酸菌を扱う抗酸菌検査、微生物の遺伝子を増幅してより迅速的で正確な検査を行う遺伝子増幅検査の3つの主な検査に分かれる。
一般細菌検査
感染の原因菌として疑われる微生物(菌)を検出し、その菌にはどの抗菌薬がよく効くのかを調べる検査。結果の報告には約3~7日ほどかかる。
・1日目 顕微鏡検査
スライドグラスに直接検体を塗りつけて、どのような菌がいるのかを調べる検査。
「グラム染色」:赤と紫の2色の染色方法により菌を大きく4種類に分類し、患者さんの情報、検体の種類や状態などから、感染症の起炎菌を推定する。
・1~3日目 培養検査
「顕微鏡検査」で起炎菌は推定できるが、菌名の確定やその後の「薬剤感受性検査」を行うためには「培養検査」が必要。
18~48時間かけて菌を培養し、菌のかたまり(コロニー)を観察する。菌によって発育しやすい条件があり、検体の種類や患者さんの情報などを見て培地を選択し、培養時間や培養環境を変える。
・2~4日目 同定検査
「培養」により菌の発育が認められたら、次は菌名を突きとめる「同定検査」を行う。
菌の種類を特定することを同定という。菌は検体から分離培養した翌日、培地に発育し、質量分析装置を用いて菌のタンパク質から大体の菌を同定することができる。
コロニーを観察:コロニーの形態(ギザギザ・ツヤツヤ)、色(黄色・緑色・黒)、臭い(線香・芳香・馬小屋の臭い)等を観察する。それらの情報から菌種を推定し、菌の持つ特性を調べるために確認培地などを使って追加試験を行う。最終的に得られた結果から、菌名を確定(同定)する。培地から判断できないものなどについては「同定機器」を使用する。
・3~7日目 薬剤感受性試験(抗菌薬)
起炎菌が同定されたら「薬剤感受性検査」(薬剤の入ったパネルで微生物を培養し、菌に効果のある薬剤(抗菌薬)を調べる検査)を行う。調べる菌ごとに異なる抗菌薬が組み合わされたパネルを使って調べる。同じ名前の菌であっても、効果のある薬剤は様々で、ここで得られた結果を見て、最終的に治療に使用する薬剤が決まる。
★ 耐性菌
「薬剤感受性検査」を行っていると「(薬剤)耐性菌」と呼ばれるものが見つかることがある。「耐性菌」とは、通常は治療に有効ないくつかの薬剤が効かず、通常の菌よりも治療に苦労する菌のこと。患者さんの間で伝播すると危険であるため院内感染対策において重要となる。
~主な耐性菌の一例~
● MRSA/メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
「メチシリン」に耐性をもつ黄色ブドウ球菌のことで、ペニシリン系をはじめ多くの薬剤に耐性をもつ。耐性をもたないブドウ球菌と同様に皮膚の常在菌で、通常は保菌していても無症状であるが、基礎疾患のある患者さんや術後の患者さんなどで敗血症などの重症感染症をおこすことがある。
● ESBL/基質特異性拡張型βラクタマーゼ
大腸菌などの腸内細菌がもつ「βラクタマーゼ産生遺伝子」が変異して、通常は特定の薬剤しか分解しないはずが、より多くの薬剤を分解する「βラクタマーゼ」を産生するようになった菌。病原性は通常の腸内細菌と同様であるが、変異した「βラクタマーゼ産生遺伝子」が菌種間で伝播してしまうため注意が必要。
抗酸菌検査
抗酸菌検査とは、主に結核菌についての検査。結核菌は一般細菌に比べ発育が遅いため、より結果を報告するまで時間がかかる。日本は、今現在も結核の中蔓延国。
結核とは
結核は、空気感染(飛沫核感染)で人から人へと感染する。唾液などの飛沫は1mほどしか飛ばないが、飛沫核はそれより小さく軽いため、遠くまで飛び、一定範囲内のすべての人に感染の危険がある。
結核菌に感染しても、必ずしも結核になるわけではなく、すぐに発症する人(一次結核)は5%未満でほとんどは体内で結核を封じこめている状態(潜在性結核)となる。その後、免疫力の低下により約5%の人が発症(二次結核)するが、約90%の人は潜在性結核のままである。
結核の症状は長引く咳や痰などの呼吸症状や、発熱や体重減少などの全身症状などがあるがいずれも風邪と区別がつかない場合が多く、診断・治療が遅れ、集団感染となってしまうことがあり、二週間以上の咳や、倦怠感、微熱などがある場合は、結核の可能性があるため早めの受診が必要。
顕微鏡検査
顕微鏡で検体を直接観察し、結核菌の排菌の程度などを調べる。時間がかかる抗酸菌の検査の中で最も短時間で結果が出る検査。
状況に応じて、検体をそのまま標本にする「直接塗抹」と検体を均等化してから標本にする「集菌塗抹」の2種類の方法がある。「集菌法」のほうが「直接法」より微量の菌量でも検出できるが、検体の処理に時間がかかるため、急いで結果を知る必要がある場合などは「直接法」が使用される。染色方法も「チールネルゼン染色」と「蛍光染色」の2種類があり、「蛍光染色」のほうが低倍率で観察でき検査も短時間ですむが、結核菌ではない糸くずなどが染まってしまうことがあり注意が必要。
培養検査
「培養検査」は感度が高く、生きた結核菌を検出する唯一の方法だが、結核菌は発育が遅く、「培養検査」が陽性になるまで最低でも2~3週間前後かかる。
喀痰などの検体には結核菌以外の多くの一般細菌が含まれており、そのままで培養すると発育の遅い結核菌は検出困難となる。そのため、抗酸菌以外の一般細菌を死滅させるといった前処理が必要。この前処理をした検体を抗酸菌用の「液体培地」と「固形培地」2種類の培地で培養し発育するかどうかを観察する。
「液体培地」・・感度が高く、発育も早い。機器による24時間培養監視が可能。
「固形培地」・・コロニー形態の観察が可能。菌量が多く必要な他の検査に利用できる。
「液体培地」に比べると感度が低く、発育も遅い。
薬剤感受性検査
結核菌にも「耐性菌」が存在するため「薬剤感受性検査」が必要となり、基本的に初回に発育がみとめられたすべての結核菌について実施する。
結核の標準的な治療に使用するINH(イソニアジド)、RFP(リファンピシン)、PZA(ピラジナミド)、EB(エタンブトール)、SM(ストレプトマイシン)の薬剤について、それぞれの薬剤を入れた液体培地で発育するかどうかをみる検査。場合によっては、より多くの薬剤を調べられる固形培地を使用した検査をすることもある。
また全世界では結核の再発と多剤耐性結核菌が出現し問題となっています。こうした中で薬剤耐性の有無を正確かつ迅速に把握することが重要とされています。
抗酸菌/結核菌群の耐性遺伝子検出
結核菌群(M.tuberculosis)と非結核性抗酸菌(M.aviumとM.intracellular)の鑑別ができる。抗酸菌の培養検査は結果が出るまでに数週間を要するため鑑別を正確かつ迅速に行うことは大変重要で、1日から2日で結果が得られる遺伝子増幅検査は適切な治療のために有効な検査。
● MDRTB/多剤耐性結核・・少なくともINH・RFPの2薬剤に耐性を示す結核菌のことで、治療が困難。単剤での治療や不規則な服薬が原因となる。
QFT検査
従来のツベルクリン検査に代わる検査で、患者さんの血液中に存在する結核菌特異抗原に対するインターフェロンγの産生量を測定することで、いままでに結核菌に感染したことがあるかを調べる。とくに結核患者さんの接触者健診などで利用されている。特異度が高い(疑陽性が少ない)検査であるが、現時点での感染と古い感染の区別は出来ない。
遺伝子検査(PCR検査)
ヒトと同様に菌にも「DNA」が存在しており、喀痰などの検体から結核菌の「DNA」を見つけ出す検査が「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査」。
特定のDNAの配列にのみ結合するように人工的に合成した「プライマー」を利用して、検体の中から結核菌の「DNA」のみを増幅させることで、結核菌が存在するかを調べる検査。顕微鏡検査より感度が高く、菌の発育を待たずにすむ利点がある。
迅速検査
主にインフルエンザウイルスなどの病原体を検出する検査。専用の検査キットを使って、ウイルスなどの抗原が検体中に存在するかを調べる。他の微生物検査と異なり当日中(5~30分)で結果の報告が可能。
対象
インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSV、A群溶連菌、ノロウイルス、ロタウイルスなど
耐性菌
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