溶血性輸血副作用

 (Hemolytic Transfusion Reactions : HTR)
 発熱と悪寒は溶血性副作用の初期症状である可能性がある。輸血開始後に自覚症状や理学的所見の変化が認められた場合は原因として輸血製剤を第一に考える必要がある。

1)処置方法

 (1)直ちに輸血を中止し,輸血ルートはそのままに生理食塩水を流し血管を確保する。
 (2)患者のベッドサイドカードやカルテ記載事項の確認。
 (3)患者血液を注意深く採取し使用した輸血製剤と伝票を輸血室に直ちに送る。
 (4)患者の輸血前血液と輸血後血液の血清の色調を比較する。ピンクや赤味がかった場合は輸血に伴う遊離ヘモグロビンの存在が考えられる。5ml程度の血管内溶血で肉眼的なへモグロビン血症が認められる。DATを輸血後サンプルで施行する。
DAT陰性の場合には非免疫学的機序の可能性を検索する。へモグロビン血症がなく,DATが陰性の場合は免疫学的溶血反応の可能性は低い。

2)症状と病態

 抗原抗体反応により引き起こされ,補体系,凝固系,内分泌系を活性化する。ショック,DIC,急性腎不全を起こす可能性がある。重篤な溶血性反応のほとんどは,ABO型の不適合輸血から生じる。他の血液型の不適合は妊娠や以前の輸血による同種抗体の発生が原因であるが,多くはABO不適合のように重篤になることは少ない。

(1)診断

最も一般的な初期の症状は発熱(多くは悪寒を伴う)である。10~15mlの不適合輸血で症状が発生する場合もある。初期所見は尿が赤くなるが,背部痛を伴う時もある。麻酔患者では唯一の症状が手術部位のび慢性の出血,低血圧,へモグロビン尿である場合がある。

(2)病態生理

 ①神経内分泌系反応
抗原抗体複合体はXII因子を活性化する。これにより,キニン系が活性化されブラヂキニンが産生される。ブラヂキニンは毛細管の透過性を亢進し細動脈を拡張する。これによる血圧低下や免疫複合体の直接作用により,交感神経が刺激されノルエピネフリンや他のカテコールアミンが放出される。これらのカテコールアミンは臓器の血管収縮を起こし,特に腎,内臓系,肺,皮下毛細管に作用する。冠動脈や脳血管にはα-アドレナジックレセプターはほとんどないため症状としては出現しない。さらに,抗原抗体複合体は補体系を活性化し,肥満細胞を刺激しヒスタミンやセロトニンの放出が起きる。これらの物質は抗原抗体複合体やDICにより刺激された血小板からも放出される。
  ②補体系
赤血球膜表面での免疫複合体の形成は補体を活性化させる。補体活性化のカスケードが完了すると血管内溶血が起きる。補体活性が最終まで進まないとC3bが着いた赤血球はC3b receptorを有する貪食細胞により捕捉される。ABO型不適合では補体はC9まで進行するため血管内溶血が起きる。以前は遊離ヘモグロビンが腎虚血の主原因と考えられていたが現在は腎血管の収縮,急性尿細管壊死に関与し,腎不全は赤血球stromaによると考えられている。
 ③凝固系
内因系凝固カスケードがHageman因子の活性化により起きる。DlCが生じることにより低血圧,腎血管収縮,血管内トロンビン生成による腎虚血が生じる。この腎障害は一過性の場合も,急性尿細管壊死に移行する場合もある。

3)治療

 HTRの治療の根本は血圧低下の防止と腎血流量の改善である。ショックが十分に改善されれば腎不全は防止が可能である。尿量を1時間あたり100ml以上に保つようにする。利尿剤やマニトールが腎血流量を増加させる目的で投与される。ドパミンは腎血流量の増加と心拍出量を増加させる有効な薬剤である。DICの多くはショックと血圧低下が引き金になる。へパリン使用は術後に出血を起こす危険性があり一定の見解は得られていない。

4)予防

 HTRを防ぐことは不可能である。例え交差適合試験が合格したとしても起きる可能性がある。最も多い原因は患者の取り違いである。人為的間違いは防ぎようがないが,輸血にたずさわる人々の注意により間違いを最小にすることは可能である。輸血開始直後は特に注意を払う必要がある。



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