抗血小板抗体の臨床的意義
新生児同種免疫性血小板減少症(neonatal alloimmune thrombocytopenia)
母子間で赤血球型不適合(Rho(D)、ABO)が原因で新生児溶血性疾患が起こるが、血小板にも赤血球と同様にHPA抗原があることから、同様の機序で母子間のHPA不適合が原因で、血小板の同種免疫による新生児血小板減少性紫斑病が引き起こされる。HPA-1a不適合による本症の発症において、白人では重要な抗原であるのに対し、日本人では母児間のHPA-1a不適合の確立はきわめてまれであることから、臨床的重要性は低い。わが国ではHPA-4b不適合により、新生児血小板減少性紫斑病にいたるケースが最も多い。(抗HPA-5b抗体は妊婦で最も多く検出されるものの、新生児血小板減少性紫斑病を高頻度に発症し臨床的意義が高いのは抗HPA-4b抗体である。)
新生児血小板減少性紫斑病の診断基準は、
① 母体には血小板減少症はなく、児は一過性の血小板減少症をきたす。
② しばしば第1子から罹患する。
③ 感染その他の原因による新生児紫斑病が除外できる。
④ 患児の血小板と反応するIgG同種抗体(血小板抗体)が母親血清中に証明される。
新生児血小板減少性紫斑病の発症においては、まず抗HPA抗体による可能性を疑い検査を実施する。
(それ以外の同種免疫感作(HLA、ABO)によっても本症が引き起こされることがあ
る。)
出生後の血小板減少は一過性で通常3週間以内に軽快するが、治療として母親の血小板を放射線照射して輸血することがある。
輸血後紫斑病 (PTP:post-transfusion purpura)
血小板輸血後1週間前後に多発性の出血斑と著名な血小板減少症を呈するもので、血小板輸血のADRの中では最も激しい。抗血小板抗体を有する患者が対応抗原陽性の血小板輸血を受けた時に生ずるが、患者自身の抗原陰性血小板も巻き込まれて重篤な血小板減少を呈する。ほとんどは、妊娠歴、輸血歴のある女性に起こり、10~15%が頭蓋内出血で死亡するという。患者は抗HPAー1a抗体を有することが多いが、わが国での報告はない。
血小板輸血不応 (PTR:platelet transfusion refractoriness)
頻回に血小板輸血を受けている患者の中で、10~20%に輸血された血小板が必ずしも期待通りの効果を示さない場合がある。血小板膜表面にはアロ抗原としてHLAーclass I抗原、血小板特異抗原(HPA)があり、頻回血小板輸血患者ではこれらに対する抗体が産生され、輸血された血小板は破壊される(免疫学的機序)。抗HLA抗体が原因の80~90%を占めるが、約10%は抗HPA抗体が関与する。一方、出血や発熱、感染症、DICなどが存在すると血小板の回収率が不良となる(非免疫学的機序)。したがって血小板輸血効果が得られない場合は、血小板数や臨床症状から原因を推定する必要がある。抗HLA抗体陽性者にはHLA適合血小板が適応となる。
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