抗ウィルス薬
インフルエンザ治療薬
インフルエンザウイルス感染症における予防の基本はワクチン療法であり,治療薬の予防投与はワクチン療法に置き換わるものではない。
タミフル(オセルタミビル)またはリレンザ(ザナミビル)を予防投与する際は,原則として,A型/B型インフルエンザウイルス感染症の発症患者の同居家族 /共同生活者であるハイリスク者を対象とする。また,治療に用いる際には,発症後48時間以内の服用により,合併症のないインフルエンザでの罹病期間を短縮することが確認されている。
これらの副作用としては,嘔気,嘔吐,下痢,腹痛などの消化器症状が報告されている。
タミフルの服用と異常行動の因果関係ははっきりしていないものの,特に小児・未成年者については,服用の有無にかかわらず,異常行動が発現する可能性を考え,少なくとも2日間,保護者等は患者が一人にならないように配慮する。
シンメトレル(アマンタジン)はA型にのみ有効な薬剤だが,近年流行しているA型インフルエンザウイルスのほとんどがアマンタジン耐性であることが報告されている。また,アマンタジン投与により,約30%の患者でアマンタジン耐性のインフルエンザウイルスが出現するとの報告がある。
2010年1月,点滴静注用のA型/B型インフルエンザウイルス感染症治療薬としてラピアクタ(ペラミビル)が承認された。
ヘルペス治療薬
臨床で使用されている抗ヘルペスウイルス薬は全てウイルスDNA合成阻害薬である。ウイルスDNAポリメラーゼ(DNA pol)を直接阻害するホスカルネットナトリウム水和物(PFA)と、DNA鎖へ取り込まれることでDNA合成を阻害するイドクスウリジン(IDU)、ファムシクロビル(FCV)、バラシクロビル塩酸塩(VACV)、アシクロビル(ACV)などの2種類に分類される。
● イドクスウリジン(IDU):
チミジン誘導体であるIDUはウイルス感染細胞内でTKによりリン酸化されて3リン酸化体となった
後、デオキシチミジン3リン酸(dTTP)の代わりにDNA鎖に取り込まれてDNA合成を阻害する。
● ファムシクロビル(FCV)、バラシクロビル塩酸塩(VACV)、アシクロビル(ACV):
FCVやVACVは生体内でペンシクロビル(PCV)、ACVにそれぞれ代謝される。その後、ウイルス
感染細胞内に移行し、ウイルスのTKによって1リン酸化された後、宿主細胞内キナーゼによって
3リン酸化体となる。これら薬剤の最初のリン酸化はウイルス由来のTKにより起こるため、感染
細胞への選択性が高い。3リン酸化体となった後は感染細胞内でDNA polの基質の一つであるデオキ
シグアノシン3リン酸(dGTP)と競合拮抗してDNA鎖に取り込まれ、DNA合成を阻害する。
IDU、FCV、VACV、ACVは、作用発現のためにウイルス感染細胞内でチミジンキナーゼ(TK)によるリン酸化を必要とする。
HIV治療薬
HIV感染症の初回治療として推奨される薬剤の組み合わせは,
・核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI) 2剤+非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI) 1剤
・NRTI 2剤+プロテアーゼ阻害薬(PI) 1剤 (少量のRTV併用)
・NRTI 2剤+インテグラーゼ阻害薬(INSTI) 1剤
のいずれかとなる。
・核酸系逆転写酵素阻害薬
・非核酸系逆転写酵素阻害薬
● 転写酵素阻害薬:
HIV感染症またはAIDSの治療に使用される抗レトロウイルス薬の一種であり、場合によってはB型肝炎も治療する。RTIsは、HIVおよびその他のレトロウイルスの複製に必要なウイルスDNAポリメラーゼである逆転写酵素の活性を阻害する。
HIVが細胞に感染すると、逆転写酵素はウイルスの一本鎖RNAゲノムを二本鎖ウイルスDNAにコピーする。その後、ウイルスDNAは宿主染色体DNAに組み込まれ、転写や翻訳などの宿主細胞プロセスがウイルスを複製できるようになる。RTIsは逆転写酵素の酵素機能をブロックし、二本鎖ウイルスDNAの合成の完了を防ぎ、HIVの増殖を防ぐ。
⭐︎ 他の種類のウイルスでも同様のプロセスが発生する。たとえば、B型肝炎ウイルスは、DNAの形で
遺伝物質を運び、RNA依存性DNAポリメラーゼを使用して複製する。RTIsとして使用される同じ
化合物の中には、B型肝炎ウイルス複製をブロックするものもある。この目的で使用される場合は、
ポリメラーゼ阻害剤と呼ばれる。
● プロテアーゼ阻害薬:
HIVはその増えていく過程で、ウイルスの組み立てに必要な蛋白質を、感染した細胞に作らせる。その蛋白質は、まず大きな分子として組み立てられるが、このままの大きさではウイルスが組み立てられないため、HIVに特有のプロテアーゼという酵素が、その蛋白質を適当な大きさに切断する。そうしてHIVは組み立てられ、増殖することができるようになる。
例えばプラモデルの組み立てで、部品を切り離す道具の役割がプロテアーゼといえる。この酵素の働きを阻害するのがプロテアーゼ阻害薬。
● CCR5阻害薬:
HIVがCD4陽性リンパ球細胞に侵入する際に、CD4陽性リンパ球細胞の2つの受容体と結合する。
まずCD4という第1の受容体と結合し、次に、CCR5あるいはCXCR4という第2の受容体と結合。これらはHIVの表面の分子と、鍵と鍵穴の関係にあり、CCR5阻害薬が、HIVとCCR5受容体との結合を邪魔すると、HIVがCD4陽性リンパ球細胞に接着して侵入することができなくなる。
しかし、CCR5阻害薬が効くのはCCR5受容体だけを持つCD4陽性リンパ球細胞で、第2の受容体がCCR5だけではなくて、CXCR4もあるとCCR5阻害薬は効かない。そのため、この薬を使う前に、CD4陽性リンパ球細胞表面の第2の受容体がCCR5だけか、CXCR4も混ざっているかを確認する検査(トロピズム検査)が行われる。
● HIVインテグラーゼ阻害薬
ウイルスDNAが核内のヒトDNAに入り込む時、ヒトDNAを切る酵素がインテグラーゼ。
インテグラーゼは、ヒトDNAを切って、その切れ間にウイルスDNAを組み込む。インテグラーゼの動きを止め、ウイルスDNAがヒトDNAに侵入することを防ぐ薬が、インテグラーゼ阻害薬。
サイトメガロウイルス感染症治療薬
ウイルスの増殖に必要なDNA複製を阻害し、サイトメガロウイルス感染症を治療する薬。
サイトメガロウイルスはヘルペスウイルスの一種で特に免疫が弱っている状態で感染すると肺炎、網膜炎などを引き起こす場合がある。
ウイルスの増殖には遺伝情報をもつDNAの複製が必要となる。
本剤はDNA複製に必要な酵素(DNAポリメラーゼ)を阻害し抗ウイルス作用をあらわす。
サイトメガロウイルス感染症はヘルペスウイルスの一種であるサイトメガロウイルス(CMV)の感染により肺炎(サイトメガロウイルス肺炎)、網膜炎(サイトメガロウイルス網膜炎)、胃腸炎、脳炎などが引き起こされる。
ウイルスの増殖には細胞分裂が必要でそのためには遺伝情報が刻まれているDNAを複製する必要がある。DNAの複製にはDNAポリメラーゼという酵素が必要となる。
本剤はサイトメガロウイルスのDNAの複製に必要な酵素の働きを阻害することでウイルスの増殖を抑え、抗ウイルス作用をあらわす。また本剤は腎機能の状態などによって薬剤の投与量を変更する場合がある。
RSウイルス感染症治療薬
RSウイルス感染症は、毎年冬季に流行し、2歳くらいまでにほとんどの乳幼児が感染する病気。
RSウイルスは風邪の原因ウイルスの一つで、赤ちゃんから大人まで何度もかかる。
多くは、風邪症状で済むが、赤ちゃんやお年寄りでは重症化して細気管支炎・肺炎などの症状を起こすことがあるので注意が必要。
RSウイルスに有効な抗ウイルス薬は無く、症状を和らげる薬を服用する。
解熱剤や痰をきるお薬、咳止めなどが使われることがある。
● 新生児・乳幼児の重症化予防:モノクローナル抗体製剤
RSウイルス感染症の重症化を予防するため、モノクローナル抗体製剤(人工的に作ったRSウイルスの抗体)を、流行時に1ヵ月毎に注射することがある。
対象は下記の方
在胎期間28週以下の早産で、12ヵ月齢以下の新生児及び乳児
在胎期間29〜35週の早産で、6ヵ月齢以下の新生児及び乳児
過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24ヵ月齢以下の新生児、乳児及び幼児
24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児、乳児及び幼児
COVID-19の治療
大きく3つの作用点
①ウイルスの細胞への侵入を阻害する
②ウイルスのRNA複製を阻害する
③免疫反応を阻害する
☆ 薬剤の選択に際しては,薬剤の大きさ,錠剤数,食事との関連,服薬回数,副作用などの点から
患者に最適な薬剤を選択し,コンプライアンスの遵守を目指す。
薬剤にもどる
細菌・微生物にもどる